MANX GRANG PRIX 2007 --4-- 28/Aug/2007




8月28日(火) 6日目 全身筋肉痛と復活?
 目が覚めると体が痛い。全身筋肉痛(打ち身?)で特に首筋が痛む。これまでの走行距離の疲れが転倒によってどっと出てきた気がする。今日はポートエリンを出た後、一旦ダグラスに放置したままのテントへ戻り、その後にマン島の南にある空港まで相棒を迎えに行かなければならない。そして昼からはGSOC(Gold Star Owners Club)のミーティングがある。できれば寝袋に包まって一日を過ごしたいのが本音だが。DB NORIは朝食を食べに行くと食堂へ降りて行った。さすがに2日連続では厚かましくなれないと思い、そんな弱気モードではあったが、ぬくぬくとした布団で、束の間の安らぎを名残惜しんでいた。しかし数分するとDB NORIが戻ってきた。忘れ物でもしたのか、と思った矢先に一言。「昨日まではテーブルに1セットだった朝食セットが今日は2セットあるんだけど・・・今日も食べちゃっていいんじゃないの?」と嬉しいサプライズ。「じゃあ、いただきます。」と、よろよろと降りて行くも、体が悲鳴を上げているようだ。キャンティーンに行くと、GSOCクラブメンバーで、ロンドン支部の長、Mike Pipe(マイク・パイプ)と友人が先にブレイクファストを取っていた。実は、この人はちょっと苦手なのだ。2004年の7月、ロンドンに来て間もない頃。あるバイクイベントに行った際、GSOCのブースが出ていた。あれは、ロンドンに来て確かまだ一週間ほどしか過ぎていない頃で、運良く知人の車に乗せて行ってもらった。初めてのオートジャンブル(部品市)や飛行場の跡地を使った旧車のドラッグレース。たくさんの旧車に感動し、さらにゴールドスターが何台も停めてあったGSOCのブースは自分にとって一際目立つものだった。写真を撮ろうと近づいていくと、背の高い、ゴルディオーナーの一人に話しかけられたのだが、それがこの人マイク・パイプだった。彼の英語はコックニー・イングリッシュと呼ばれるもので、いわゆるロンドン訛りという奴だ。発音がはっきりして聞き取りやすいクィーンズ・イングリッシュとは程遠い、ロンドン下町訛り、とでも言おうか。これ英語?という程に崩れた発音で、全く訳が分からなかった思い出がある。映画「My Fair Lady」でオードリー・ヘプバーンが演じるイライザがこのコックニーから綺麗な発音に矯正されるシーンがあるのだが、まさにそんな感じである。いや、もっとハイレベル(?)である。簡単に説明すると、母音の発音の仕方が全く異なるのだ。アルファベットの「A」を例に挙げよう。「エィ」と普通は発音するが、これがコックニーだと「アイ」となる。だからSpain「スペイン」は「スパイン」に、Monday「マンデイ」は「マンダイ」に。そして、付加疑問文。「良いバイクですね。」と言う時の「It is a nice bike, isn't it?」の最後の「ね」に当たる「isn't it」の部分だ。普通ならば「イズント イット」、崩れて「イズネ」である。しかし彼らは「イニッ」や「イネッ」と発音する。さらに「don't you」は「ドンチュー」ではなく、「ドンチャ」となる。そんな訳で、英語が聞き取れない!いや、それが英語と言う事すら分からない!! 映画「Leather Boys」、「さらば青春の光」もこの発音満載なので聞いていると楽しい。だが、レザーボーイズの方は字幕付きのバージョンが無いため、何を言っているのかまだまだ分からない所がたくさんだ。最初のACE CAFEに乗り付けて、カフェに入っていくシーンでこの「ドンチャ」がはっきりと聞き取れるのでビデオ・DVDをお持ちの方は是非聞かれたし!ちなみに、「さらば青春の光」では5ポンドの事を「ファイブパウンズ」と言うのではなく、「ファイバー」と表現するスラングが使われるシーンもある。ちなみに10ポンド、「テンパウンズ」は「テナー」。1000ポンド、「サウザンドパウンズ」は「ワン・グランド」となる。更に更に、£「パウンド」の事を「クイッド」(quid)と言うスラングも一般的なので、もし英国に行かれる事があれば是非試してもらいたい一言である。もう一つは「乾杯」の意味の「Cheers」(チアーズ)だが、こちらでは「ありがとう」の意味でも使われるのでこれも気軽に使ってもらいたい。他にイギリスならではの英語で「ありがとう」を表す「Ta」(タ、と発音)があるが、これは日本語で言う「どうも」的な感じなのでチアーズをオススメする。これはカフェなどで、食事をサーブされた時などに英国の親父さんが実際に言っているのを耳にする事が出来たり。

 閑話休題、そんな訳でマイク・パイプの英語には苦い思い出があり、今でも何となくまだ苦い(トラウマ?)。そして彼は、ちょっと気難しい部分もあるようで、以前ストラトフォード・アポン・エイボンであったGSOCのミーティングの時に、同じテーブルでディナーを共にしたのだが、何と無く取っ付き難さを感じてしまっていた。(ACE CAFEで彼のゴルディに跨らせてもらった時、うっかりテールランプに蹴りを入れ、ヒビを入れたからか!?)そんな彼がDB NORIと自分に気づき満点の笑顔で挨拶をしてくれた。恐る恐る近づいて、昨日のアクシデントの話をすると、とても親身になってくれて、「ちゃんと走れるのか?バンに乗せてやってもいいんだぞ?」などと優しい言葉をかけてくれて嬉しかった。これもマン島マジックか!?何て思いつつ、こんがり良い色に焼けたトーストを親の敵のようにやっつける、やっつける。ありがとう、ホテル「ポートエリン・ロイヤル」!!

 愛車はマルコム達が宿泊するCherry Orchard(チェリー・オーチャード)に停めてあり、このホテルからは歩いて10分ほどかかる。いつもより重く感じるタンクバッグを抱きかかえ、あまり見たくない愛車と再びご対面。「あー、嫌だ。」とも言ってられず、再度状況を点検。まずはバキバキになったフェアリングのクリアーパーツを外す。正面のバブルカバーは先月の事故後に新品を調達したばかりだったのに、もうお別れである。大きな粗大ゴミ用のゴミ箱があったため、そこにそっと捨てさせてもらう。フェアリングを外すのはテントに戻ってからにしなければならないなぁ。

 DB NORIは10時30分から行われるVMCCのメインイベントに参加するそうだ。ダグラスのグランドスタンドから一台ずつスタートし、TTコースを一周。道路は普段通り使われているが、そのラップタイムが計測され、事前に設定、申告する自分の平均速度に近い人が勝ち、と言ったものだそう。自分は残念ながらそれどころでは無いが、ひとまず一緒に出発地点のダグラスへ向かう事にする。今日も天気が良く、ダグラスまでの道は爽快そのものだ。だが、ハンドルがまだ微妙にずれているままでフェアリングもぐらつくため、その爽快さを味わう余裕も無かったが、無事にキャンプ場までは帰り着いた。
(2007年11月19日号)

次回へ続く。






VMCCのメインイベントに出場する車両でグランドスタンドは大盛況。




トライアンフのレーサー、希少なTrumph GP!! エンジンの形が美しい。
綺麗にレストアされたトラのサンダーバード。



 メインイベントの参加者と観客で朝のグランドスタンドは大盛況だ。GPはTTと比較して規模が小さいとは言われるが、様々な年代の旧車が所狭しと走り回るGPとモダンバイクで溢れ返るTTとを比べても仕様が無い気もする。実際、TTに欠かさず10年以上参加している知人との話を思い出す。面白い事に彼はTTにしか興味が無いと言う。数台所有のバイクのうち、恐らくモダンバイクは現行のトライアンフ・ボンネビル一台だけで、その他の3台か4台は全て英国旧車という英車フリークだというのに。彼は毎年マン島のある決まった場所でキャンプをするそうで、そのキャンプ場で元々知り合った各地、各国からのバイカーと再会する事も大きな楽しみだと言う。彼にとってTTはバイクの祭りだけでなく、普段はつながる事の無いバイカー達との再会の場でもあるようだ。逆に自分はまだTTに行った事はないが、どうも二の足を踏んでしまう。溢れ返るカラフルなモダンバイクに、カラフルなウェアー。マウンテンセクションなどでは軽快な音と共にそういうバイカーに抜かされまくり、夜な夜な街やキャンプ場ではクレイジーな狂宴が催されるのかと思うと、自分がマン島に求めるものはちょっと違うんじゃないのかなと。もちろん、往年のレーサーが走るイベント「Lap of Honor(栄光の一周)」には大いに興味があるけれど、結局旧車が溢れ返るマン島じゃなきゃ嫌なんだろうな。

 知人のイギリス人にとって、旧車に触れる事は何十年も続けてきた事だ。それが故、旧車一色のマン島は何か物足りないのかもしれない。「温故知新」。そう思うと自分はまだ「温故」の感覚を育てているのだろう。GPで何十年も旧車に触れている老巧な人々と出会う事が楽しみであり、感動なのだ。(何年か先にはTTの方に面白みを感じるようになるのだろうか!?)

 さてさて、VMCCのイベントをのんびりと見物している暇もなく、相棒の到着までに愛機と向き合わなければならない。テントに戻ると早速フェアリングを外しに掛かる。序盤戦で購入していた英インチの六角レンチが活躍してくれ、ダメージを受けたフェアリングをするりと外すとフレームに固定されているステーがあわらになる。そのステーの曲がり方には驚いた。転倒時は大した速度では無かったが、衝撃の大きさに身震いする。2本のメーターケーブルもフェアリングが干渉した所為で裂けてしまっていたため外してしまうと、この時点でこれ以上出来る事は無くなってしまった。名誉の負傷(?)を負ったフェアリングをすぐに捨てる事も気が引けたので、とりあえずテント脇に置いて眺めながら煙草をくゆらす。トライアンフ入手時から装着されていたフェアリングとマン島で別れる事となるとは。グランドスタンドから聴こえてくる排気音が流れる中、芝生に座りながら感傷にしばし浸る。

 空港まではダグラスから約20分。南西に下っていくとキャッスルタウンの手前にこじんまりとした「RONALDSWAY AIRPORT(ロナルズウェイ空港)」がある。フェアリングもステーも無いマシンは何だか見た目はもちろん、視界も全然違うために何だか別のバイクに乗っている様で案外楽しい。そんな事を考えているとあっという間に空港に到着。相棒KOIKEがロンドンから来なかったら、わざわざ空港へ来る事はなかっただろうな。警備員の指示に従って、小さい空港の片隅に駐車、建物へと入っていく。ここにわざわざ来るバイカーもそんなにいないようで、辺りは比較的きちんとした身なりの人々ばかりだ。ちなみにマン島は第一章で書いたように、タックス・ヘイブンのため裕福な人々が多く住んでいる。そんな中には平日はロンドンで働き、週末には飛行機でマン島へ帰ってくる人々もいるようだ。確かに、飛行機だと1時間強のため、ちょっと郊外から通勤する感覚と変わらないんだろう。通勤費はもちろん桁違いなんだろうけれど・・・平日は首都で働き、ウィークエンドはゆったりと時間が流れるマン島での生活。うーん、そのメリハリが羨ましいぞ。そんな訳で、辺りにはそういう方々なのかは定かではないが、ピシッとスーツを着こなしたジェントルメンが多かったような気もする。

 何だか場違いな雰囲気を感じつつ、3本足マークの付いた飛行機「EURO MANX(ユーロ・マンクス)」の到着を待つ。(ユーロとは言っても航行はUK内のようだけれど。)いよいよ相棒との再会である。「数日間会えずにいて寂しかったよ。」何て甘い言葉はあるはず無く、開口一番の言葉は「あれ、持ってきた?」である。「あれ」とは何か、実はスペアのヘッドライトとライトステーなのだ。昨晩、芝生と戯れた事によってダメージを被ってしまった我が愛機。その場ですぐにDB NORIに携帯を借り(自分の携帯は未だ使用不可)、ロンドンで出発準備をしていた相棒へ電話。部屋の押入れ深くに押し込んでいたそれらのパーツを持って来てもらうように懇願しておいたのだ。さて、いよいよキャンプサイトに戻りリペアの開始だ!

 はるばるロンドンからやって来た相棒をいきなり放置し、まずはリペアである。とは言っても、ヘッドライトを付けるだけだから時間はそんなに掛からないと思っていた。しかし、これがまたドツボにはまってしまう結果となる。そんな素人話をツラツラ書いても仕様が無いので割愛するが、このような具合である。

*ライトレンズのギボシがあわずに手持ちのスペアで交換→いざ接続してみるとライトが瞬時に切れた→実は6ボルト用だった→フェアリングについていたライト部を移植する際のピン止めに死ぬほどはまる。(馬鹿)

*ライトの位置とメーターのバランスを調整するためにメーター部をステーごと外し、上部へ装着しようとしたがネジやステーの位置ですんなりとはいかず、考えた末に何とか上部につける事が出来たが、結局元のバランスの方が良かったためまた元に戻す。(無駄骨)

*ライトステーはフロントフォーク径よりも細かったが、幸いステーが分割できるタイプだったので無理やり固定。トップブリッジ、ハンドルを外さずに済んだ点はラッキー。これがもし一体式のものだったらステー自体を付けれずに荷物がただ増えただけだった。(幸運)

*ステーとライトを留めるネジが無く、グランドスタンドの店に買いに行くが今回はでっぷり大将もあてにならず、撃沈。頼みの綱で、レーサー・ケイの父・デイブのテントを訪ねネジを分けてもらう。(甘え)

*クラッチケーブルがレバーから思いっきりライトに向かって突き進んで行くために、ハンドルとライトの位置関係にはまる。危うく、死ぬほど低い位置に設定するところだった。画像のクラッチケーブルの取り回しに突っ込まないように。(素人)

どんどん時間が過ぎて行く!! GSOC(ゴールドスター・オーナーズ・クラブ)のミーティングがもう始まっているのにまだ終わってない!「こんな事なら、後で作業すればよかった?いやいや、そしたらその後の行動が制限されるし、やっぱり先にしていないと、あぁ”−−−−!!」と、頭から湯気が出てくる。いかん、いかんぞ。落ち着け、落ち着け。相棒もマン島到着早々、テント横から動くに動けない状況にイライラで最悪モード・・・もちろん自分もイライラ。 ああ、いつになったらオトナになれるんだろうか。想像以上に時間を費やしてしまったが、幸運な事に何とか復活である!ライトも点く!! これで夜の道のりもOK!!まさかマン島でカスタムする事になるとは思っていなかったが、実はフェアリングをいつか外そうとは考えていたため、結果的に転倒はいいチャンスになったのか!? 優柔不断の自分にマン島が「喝」を入れてくれた、と言うと旨く言い過ぎ? フェアリングに覆われていないヘッドライトとハンドル周りはやはり王道であり、いいものだ!

さぁ、生まれ変わった愛車でGSOCのミーティングに行くぞ!!
(2007年12月15日号)

次回へ続く。




さらばフェアリング。 カークマイケルでの一枚。
Photo by Peter from Davida




カスタム後。




うな垂れているように見えるデイブ。実はネジを探してくれてます。
「この箱のやつはレース用なんだけど・・・」と言いながらもネジをくれたデイブに感謝!!




次回はOld Laxey(オールド・ラグジー)でのGSOCミーティング。
さて何台のゴールドスターが集まったでしょうか?


- おまけ -



ダビダのボス・フィディはモーターサイクルイベントでの出展時、各地の友人達を夕食に誘うのだけど、
最近のフライヤーにシャロンが撮ったこの写真を使ったそう。


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